民法初伝五日目:所有権が侵害されたとき-妨害をやめろ

1 今回の内容
 本日は,前半で前回の終わりに出題した<事例5>の検討を行い,後半で物権的請求権のうち残っている2つ,「妨害排除請求権」と「妨害予防請求権」について学習します。
---
<事例5>
 Xが駅前に停めていたX所有の自転車(中古なので10000円相当)を,Yが勝手に乗って持ち去った。そのため,Xはしばらくの間バスで移動せざるを得ず,余計なバス代5000円を負担するはめになった。XはYに対し,いかなる請求ができるか。
---

2 判断過程が大切
 前回の<事例2>と似ていますので簡単そうです。これまでの知識で十分解けるでしょう。
 しかし,甘く見てはいけません。
 これまでにもお話ししているとおり,事例問題を解くにあたっては「結論がどうか」も重要ではありますが,もっとも大切なのは「どのような思考経過をたどって結論を導いたのか」でした。
 たしかに,おかしな結論になるようでは常識的な利害調整をする民法の考え方に反してダメなので,結論の妥当性も重視されます。しかし,法律論である以上,結論に至る過程がきちんとしているかがもっとも重要です。
 したがって,おかしくない結論であれば,つまり常識的な範囲内でさえあるならば,どちらの結論でも正解ということはあり得ます。しかし,その結論に至る思考経過がきちんとしていることは必須です。
 そこで,この<事例5>についても,あらためていっしょに思考経過をたどってみましょう。

3 問題文で何が問われているのか?
 最初に,問題文が問うているのは何かをチェックします。
 <事例5>の問いは「XはYに対し,いかなる請求ができるか」となっています。ですので回答は「Xは,Yに対し,何々請求ができる」というものになるはずです。もちろん論理的には「XはYにいかなる請求もできない」となることもありえます。けど,そういう回答になることは普通はあまりないです。わざわざ「請求できるか」と問題にしているからには,何らかの請求はできる場合が大半です。

4 問いを確認することで回答すべきことを把握する
 何が問われているかをチェックすることで,その問題について何を回答したらいいのかが明らかになります。言い換えると,答案をどのように締めたらいいか,答案の最後に何を書いたらよいかがわかるということです。これをきちんとしていないと,「ふうん・・・で,結論は?結論が書いてないってどういうこと?回答がないと評価しようがないね」という冷たい評価を受けることになります。画竜点睛を欠くというやつですね。

補足:狭く問われている場合と広く問われている場合
 たとえば「不法行為に基づく損害賠償請求ができるか」というように特定の請求権に限定してくれている場合は,その請求権についてだけ検討すればよいので比較的楽だと言えます。
 他方で,問われていることが<事例5>のように「XはYに対し,いかなる請求ができるか」というものの場合,どんな請求ができるかが広く問われているわけですので難しめの問題と言えます。こういう問い方をされると,民法に数多ある請求権の中からその問題で関連する請求権はどれかを自分で見つけないといけません。見つけてくる能力も問われていると言えます。大丈夫です,こつこつ学習していれば必ずできるようになります。

5 問いを確認することで検討すべき内容を把握する
 また,何が問われているのかの把握を怠ると,まったく見当違いのことを検討してしまう危険があります。たとえば,「X→Y」を検討せよと問われているのに,「Y→X」を検討してしまっているような場合です。こうなると悲劇です。いやむしろ喜劇かな。いずれにせよ大間違いです。試験ならそれだけでアウトです。
 何が問われているのかを的確に把握したうえで,その問われていることに答えるためにはいったい何を検討する必要があるのか,という順序で考える癖をつけましょう。

6 法を離れて素朴に考えてみる
 <事例5>の「どのような請求ができるか」という問いについて,具体的に検討していきましょう。ここはセオリーにのっとり,民法を離れて常識的に考えて,自分がXならどんなことをYに要求したいかを想像してみましょう。
 そうすると,Xとしては,Yに「わしの自転車を返してくれい」と言いたいでしょう。あるいは,「自転車はもう返さんでええから10000円弁償してくれい」と言いたいかもしれません。また,Yのせいでしばらくの間バス移動せざるを得ず無駄にバス代がかかったという迷惑を受けていますので,「バス代5000円を弁償してくれい」とも言いたいでしょう。

7 素朴な考えを法的に構成する
 「自分の自転車を返してくれい」「自転車代金を弁償してくれい」「バス代を弁償してくれい」というXの要求を法的に構成すると,1つめは「所有権に基づく返還請求」,2つめと3つめは「不法行為に基づく損害賠償請求」ということになります。いずれもこれまでに学習しましたよね。

8 条文は必ず引用する
 条文上の根拠すなわち法的根拠は覚えていますか。前者は解釈によって認められていますし,後者は民法709条でした。
 条文がある場合には必ず引用しましょう。法律学において条文は基本中の基本なんですが,慣れてくると当たり前になってきておろそかになりがちです。しかし,決しておろそかにしてはいけません。単なる意見と法律論とを分けるのは,法律の条文に基づいた議論をしているか否かです。答案には,きっちり条文を書きましょう。隙があれば条文というくらいの意識でいましょう。重要ですので何度も申し上げておきます。また,条文がない場合には解釈によって認められることに触れておきます。
 ただ,物権的請求権はあまりに基本的なところでありこれを認めないという学説はないと思いますので,あえて長々と論じなくてもよいでしょう。他にあまり書くことがないときだけ長々と書くという感じです。このへんは答案全体の分量を見据えつつどれくらい書くかという戦略的判断になります。

9 所有権に基づく返還請求権の要件を検討する
 次に,請求権それぞれの要件を検討します。
 あらためて言うまでもないでしょうけれど,要件を満たすかどうかで効果が発生するかどうかが決まります。「所有権に基づく返還請求権」という権利が発生するためには,返還請求権の要件を満たす必要があります。
 返還請求権の要件は覚えていますか。「要件→効果」をマスターすることこそが法学学習ですので,基本的な権利の要件効果は覚えてしまいましょう。以下の2つでしたよね。
 ①目的物を所有していること
 ②相手方が目的物を権原なく占有していること

10 要件に問題文の事実をあてはめる
 要件は一般的抽象的なものであり,具体的な事実がこの要件にあてはまるかどうかを別に検討しなければなりません。要件と事実とがごっちゃになって混ざってしまわないように気をつけましょう。一般的な法規範(要件)→具体的な事実→法的な効果という順番です。この三段階をくっきり分けて検討できていれば,法律論がわかっていることをアピールできます。
 <事例5>では,「X所有の自転車」なのですから,Xは自転車に対して所有権を有しています。①の要件はクリアーしています。
 そして,その自転車を占有しているのは,持ち去ったYです。勝手に持ち去ったYには何らの正当権原もありませんから,②の要件もクリアーです。
 したがって,要件をすべて満たしますので,「所有権に基づく返還請求権」は発生しています。

11 相手方の言い分も検討する
 忘れてはならないのは,一方の言い分だけでなく,もう一方の言い分も考えるということです。一方の言い分だけで決めつけてしまうのでは不公平そのものです。民法は当事者間の利害調整をする法律ですので,双方の言い分に耳を傾ける必要があるのです。もう一方についても同様に,常識的に何か言いたいことはないだろうか,それを法律的に構成するとどうなるかということを検討しなければなりません。
 ・・・とはいえ,<事例5>のYは,Xの自転車を勝手に持ち去っているわけですから,つまり盗人なわけですから,このような盗人の言い分を認める必要はありません。少なくとも,Yには,本来の所有者であるXに主張できるような正当な権利はありません。

12 結論を明示する
 結論として,XはYに対して,所有権に基づく自転車の返還請求ができるということになります。最初に申し上げたように,問いに対する答えを忘れないようにしましょう。

13 不法行為も忘れない
 もう一つの権利である不法行為に基づく損害賠償請求についても忘れずに。同じように要件を検討します。はしょりますが,①故意,②違法性,③損害,④因果関係のいずれも満たすということで問題ないでしょう。よって,不法行為に基づく損害賠償請求権も発生しています。
 ただし,金額は,返還請求をしている場合には5000円,返還請求をしていないなら10000円+5000円ということになるでしょう。

14 事例問題の解き方は是非マスターしよう
 回答が出ました。「XはYに対し,所有権に基づく自転車の返還請求と不法行為に基づく5000円の損害賠償請求ができる」あるいは「不法行為に基づく15000円の損害賠償請求ができる」ということになります。
 いかがでしたか。簡単でしたか。一瞬で答えが出たとしても,きちんと検討し法律論にのっとって回答を導かなければならないのだということを,繰り返し繰り返し申し上げておきます。

15 回答例
 私は極めて親切な人間ですので,<事例5>の回答例もつけておきましょう。あくまで一つの例です。模範解答というわけではありません。
---
<回答例>
 Xとしては,Yに,自転車の返還とバス代の弁償を請求したいと思われる。あるいは,自転車の返還に代えて自転車相当額の弁償とバス代の弁償を請求することも考えられる。
(1)まず,自転車の返還については,Xは自転車の所有権者であるから,所有権に基づく返還請求を行うことが考えられる。
 所有権に基づく返還請求権については条文上はっきりと規定されていないので,この権利は民法上認められのるかが問題となる。
 所有権は物を直接支配する権利であり,占有が奪われた場合に返還請求できないというのでは所有権の意味がまったくなくなってしまう。また,単なる占有についてさえ,占有回収の訴えが認められているのだから(民法200条),所有権についても返還請求が当然認められるべきである。よって,解釈により,所有権に基づく返還請求権は認められる。
 返還請求権の要件は,①目的物の所有権を有していること,②相手方が正当な権原なく目的物を占有していることである。
 本問では,①Xは自転車の所有権を有しており,②Yは自転車を勝手に持ち去っており正当な権原なく自転車を占有している。よって,XはYに対し,自転車の返還請求ができる。
(2)次に,自転車相当額の弁償及びバス代の弁償としては,不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うことが考えられる。
 不法行為の要件は,①故意または過失,②違法性,③損害の発生,④因果関係である。
 本問では,Yは,①知っていてすなわち故意に,②Xの自転車を持ち去ったことでXの自転車所有権を侵害しており,③④その結果,Xに自転車の喪失(時価10000円)及びバス代(5000円)という損害を生じさせている。
 よって,XはYに対し,自転車の返還請求をするのであればバス代5000円の損害賠償請求ができるし,自転車の返還請求をしないのであれば自転車相当額及びバス代の合計15000円の損害賠償請求ができる。
---

16 具体→抽象→具体
 さて,この回答例を丸暗記したりしてもあまり役に立ちません。
 むしろ,この回答例の「流れ」をマスターすることのほうが大切です。先ほど検討した順序にしたがい,当事者が請求したいだろうことを示す→その請求についての法的根拠すなわち条文の指摘/条文がないが解釈で認められることを論証→要件の指摘→本問の事実を要件にあてはめ→結論,という流れになっていますよね。
 言い換えれば,具体的な問題文の事実→抽象的な法的議論→具体的な問題文の事実をあてはめて結論,という流れになっています。この流れで書くことによって,「法律論」の形式にしたがった回答にしているのです。
 何度も申し上げているように,「具体→抽象→具体」がごっちゃになってしまっているものは,法律論ではありません。とくに,真ん中の抽象論のところに問題文の具体的な事情が入り込んでしまうことはよくやってしまうミスです。それでは法律論ではなくなってしまいます。
 では,<事例5>についてはこれくらいにして,物権的請求権の残りの2つ,妨害排除請求権と妨害予防請求権について確認しておきましょう。

17 妨害排除請求権とは
 まず,「妨害排除請求権」というのは,所有物の使用・収益・処分が誰かによって妨害されている場合に,その妨害をやめろと請求する権利のことです。
 たとえば,所有している土地を不法占拠している人に対し,「出て行け」と請求する場合です。

18 妨害排除請求権の要件
 妨害排除請求権の要件は次のとおりです。
 ①目的物を所有していること
 ②相手方が正当な権原なく所有権行使(使用収益処分)を妨げていること

---
<事例6>
 Xが所有している土地の上に,Yが勝手にY所有の資材を置いた。Xは,Yに対し,いかなる請求をすることができるか。
---
 YがXの承諾なく資材を置いているのはいわゆる不法占拠です。Yのせいで,Xは自分の土地の自由な使用収益が害されています。ですので,XはYに「わしの土地から資材をのけてくれ」と言えます。
 このように,自分が所有している物の使用収益処分を,他人によって妨害されているという場合に,その妨害を排除せよと請求する権利が「妨害排除請求権」になります。

19 返還請求権と妨害排除請求権の違い
 返還請求権と妨害排除請求権とは似ており,どう違うんだろうと思っておられる方がいるかもしれません。両者の違いは以下の点にあるとされています。
 返還請求権のほうは,所有物の占有が完全に奪われている場合です。完全に奪われてしまっていますので,「返せ」「返還せよ」という請求になるわけです。
 他方で,妨害排除請求権のほうは,完全に奪われている以外の形で妨害されている場合です。ですので,「妨害をやめてくれ」という請求になります。
 しかし,完全に奪われている場合も妨害の一種なので,両者に本質的な差異はないとされています。

20 妨害予防請求権とは
 返還請求権と妨害排除請求権はよく登場しますけど,この「妨害予防請求権」はあまり見かけません。
 返還請求権と妨害排除請求権は,現在すでに占有が奪われていたり妨害されたりしている場合の話です。他方で,この「妨害予防請求権」は,これから妨害が起きそうなおそれがあるという場合に,あからじめ備えることを求めることができる権利です。

---
<事例7>
 Xが所有している隣の土地をYが所有しているが,Y所有の土地上にある塀が老朽化して今にも崩れそうになっている。しかも,Xの土地上に崩落してくるおそれが高く,そうなればXは大迷惑しそうである。Xは,Yに対し,いかなる請求をすることができるか。
---
 <事例7>のような場合に,XはYに対し,塀が崩れないような措置をとれと請求することができます。
 ただし,今はまだ妨害が生じているわけではなく,未来に備えてあらかじめ請求する権利という点から,妨害が起きそうなおそれはかなり高度のものでないといけないとされています。

21 妨害予防請求権の要件
 妨害予防請求権の要件は,次のようになります。
 ①目的物を所有していること
 ②相手方が所有権行使を妨げるおそれがあること

22 練習問題
 ここまでの復習を兼ねて,以下の二つの事例問題を検討しましょう。

---
<事例8>
 Xが所有する自転車が,台風によって飛ばされて,Yが所有する土地の敷地内に入ってしまった。Xは,Yに対し,いかなる請求ができるか。
---
---
<事例9>
 Xが所有する土地をYが借りて,土地上に建物を建てた。Xは,Yに対し,建物収去土地明渡請求をすることができるか。
---

21 <事例5>と<事例8>の比較
 <事例8>については,何が問題となるでしょうか。

---
<事例8>
 Xが所有する自転車が,台風によって飛ばされて,Yが所有する土地の敷地内に入ってしまった。XはYに対し,いかなる請求ができるか。
---
 Xとしてはもちろん,「わしの自転車を返してや」と言いたいでしょう。したがって,返還請求権が問題となります。そこで,要件を検討することになります。要件の検討はもうできますよね?
 ただ,前回の宿題だった<事例5>ではYが自転車を勝手に持ち去っていますが,この<事例8>では台風という不可抗力のせいでYの敷地内に入っています。この違いが,結論に影響を及ぼすかどうかを考えなければ成りません。

22 不可抗力は返還請求権の要件に影響するか
 返還請求権の要件において,相手方がどのような理由で占有を取得したかは問われていませんでしたよね。覚えていますか。
 したがって,不可抗力でYが占有することになったとしても,やはり返還請求権は発生します。ですので,返還請求できるという結論になり,<事例8>は<事例5>と同じ結論ということになります。

23 過失がないので不法行為は成立しない
 <事例5>と結論は同じと言ってしまいましたが,不法行為に基づく損害賠償請求はできるのでしょうか?
 この<事例8>では,Yには故意も過失もありません。自然の力である台風によってたまたまXの自転車を占有することになっただけです。したがって,不法行為が成立しません。損害賠償請求はできないという結論になります。なのですいません,<事例5>とまったく同じ結論というわけではありませんでした。

補足:比較問題
 法学の事例問題には,比較問題もよく出題されます。比較問題では<事例5>と<事例8>のように,似ているけど少し違うというものが出ます。まったく似ていないものだと比較のしようがないので,どこか似ていてどこか違うというものが出題されるわけです。
 このような比較問題については,共通している部分はどんなところか→違っている部分はどんなところか→その違いが結論にどのような影響を生じさせるのかという順番で検討していくことになります。

余談:Yからも妨害排除請求できないか
 <事例8>はXが何を請求できるかだけが問われていましたが,実は別の問題が隠れています。逆にYのほうからXに対して「わしの土地に置いてある君の自転車をのけてや」という妨害排除請求ができないかという問題があるのです。
 Yは土地所有者であり,妨害排除請求の要件は満たしそうです。要件を満たしますよね。要件を満たす以上,この請求は認められるでしょう。
 そうすると,XもYも物権的請求権が行使できるということになりそうです。Xが訴えればXは勝ち,Yが訴えればYが勝つということになります。

余談:費用負担の問題
 問題は,誰が撤去するのか,そして撤去に必要な費用をどうするかです。
 つまり,妨害排除請求権の効果が「相手方に妨害排除のための行動をとらせることができる」というものであれば,撤去の費用も撤去する相手方が負担することになりそうです。
 ところが,妨害している相手方も「わしの自転車を返してや」という返還請求ができます。返還請求権の効果が「相手方に自転車を返還させることができる」ということになると,費用は返還する相手方が負担することになるでしょう。
 ということは,返還請求権ないし妨害排除請求権を先に行使することで,相手に費用を負担させることができるという結論になります。つまり早い者勝ちということになりますが,権利行使の先後で結論が変わるのはいかがなものかと指摘されています。
 そこで,請求権の効果と費用負担の問題については,少し違う考え方をすべきではないかという学説があります。論点の一つですが,深入りはしないでおきます。

24 土地を借りている場合には

---
<事例9>
 Xが所有する土地をYが借りて,土地上に建物を建てた。Xは,Yに対し,建物収去土地明渡請求をすることができるか。
---
 Xは土地を所有しており,Yが占有していますので,「わしの土地を返せ」と言えるとともに,「わしの土地に建てている建物をのけろ」と言えそうです。この「建物をのけたうえで土地を返せ」を建物収去土地明渡請求と言います。所有権に基づく返還請求権の一種です。
 しかしながら,この<事例9>では,Yは,Xから正当に土地を借りています。不法占拠者ではありません。Yから「正当に借りたものである」という反論が成り立ちますので,建物収去土地明渡請求権は発生しません。返還請求権の要件を満たさないんですね。
 常識で考えても,正当に借りているのに建物収去土地明渡を求められてはたまったものではありません。
 よって,結論として,XはYに対し建物収去土地明渡請求をすることはできません。

余談:貸借
 土地を有料で貸すことは,「賃貸借契約」にあたります。民法601条以下に規定されています。また,無料で貸すことは「使用貸借契約」です。民法593条以下です。
 貸したその物自体ではなく,同種・同品質・同量の物を返す契約を「消費貸借契約」と言います。これは民法587条以下です。
 似たような言葉が使われていて混乱するかもしれませんが,「賃貸借」は大家さんからアパートを借りる場合,「使用貸借」は親戚の家をタダで借りてすむ場合,「消費貸借」はお金の貸し借りというように,それぞれの典型的なケースをイメージしておけば今は十分です。

補足:賃貸借契約消滅の再反論
 Xから「土地は貸したが賃料ぜんぜん支払わないから解約した」といった再反論が出てこれば話は別です。
 つまり,Xが土地を返してほしければ,貸した契約すなわち賃貸借契約がそもそも成立していないんじゃないかとか,成立はしたけどもその後なんらかの形で消滅していないかとか,例えばYの賃料未払いや迷惑行為なんかで解約したとか,賃貸期間が終わって更新しなかったとか,そういう事実がないかを検討しなければならないということです。詳しくはまたいずれ。

25 まとめ
 今回で,所有権が侵害された場合の話については一段落です。
 ここまで,何を所有できるのか,所有するとどんなことができるのか,もし侵害されたらどのような対応がとれるのかについて学習してきました。
 次回からは,そもそもどのようにしたら所有者になれるのか,どうしたら所有権を取得できるのかという問題に移ります。所有権を取得できれば,これまで学習したように自由な使用収益処分ができるようになり,侵害されたら所有者は物権的請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権が行使できるわけです。
 民法初伝も次回から後半戦に入ります。

外部リンク